From 9e07a5748b1c31cf9e6b1168883c912041359390 Mon Sep 17 00:00:00 2001 From: *IyqaOdO7EH Date: Tue, 21 Nov 2023 15:16:56 +0900 Subject: [PATCH] =?UTF-8?q?=E6=96=B0=E3=82=B5=E3=82=A4=E3=83=88=E3=81=B8?= =?UTF-8?q?=E3=81=AE=E7=A7=BB=E8=A1=8C=E3=81=AB=E4=BC=B4=E3=81=84=E3=80=81?= =?UTF-8?q?=E6=BA=96=E5=82=991=E5=8F=B7=E3=81=AE=E3=82=B3=E3=83=B3?= =?UTF-8?q?=E3=83=86=E3=83=B3=E3=83=84=E3=82=92=E9=9D=9E=E5=85=AC=E9=96=8B?= =?UTF-8?q?=E3=81=AB?= MIME-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=UTF-8 Content-Transfer-Encoding: 8bit --- event-vol1.md | 103 ------------------- fushimi.md | 74 -------------- hirarisa.md | 128 ----------------------- index.md | 67 +------------ kasai.md | 130 ------------------------ ohtaki.md | 273 -------------------------------------------------- ozawa.md | 121 ---------------------- porologue.md | 164 ------------------------------ sekiguchi.md | 49 --------- ukkari.md | 69 ------------- 10 files changed, 1 insertion(+), 1177 deletions(-) delete mode 100644 event-vol1.md delete mode 100644 fushimi.md delete mode 100644 hirarisa.md delete mode 100644 kasai.md delete mode 100644 ohtaki.md delete mode 100644 ozawa.md delete mode 100644 porologue.md delete mode 100644 sekiguchi.md delete mode 100644 ukkari.md diff --git a/event-vol1.md b/event-vol1.md deleted file mode 100644 index a9e2f04e..00000000 --- a/event-vol1.md +++ /dev/null @@ -1,103 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 第1回勉強会の時間割 - -![勉強会](./assets/images/event-vol1.jpg) - -## 【タイトル】 -夏休み特番!真夏のOne Last Summer 8月祭 in 2021 -~作家と原稿料をとことん語るぞスペシャル!!~ - - -## 【企画内容】 -全3時間半の長丁場で、先行文献の紹介、昨今の諸問題の討議、準備号の感想戦を一挙に行うオンライン配信番組。参加チケット購入[STORES](https://authors-note.stores.jp/items/6078e843d5e9c9671858a8ec)から(8/20 23:59まで受付)。 - -※勉強会は終了しました。購読チケットを購入すると、動画アーカイヴをごらんいただけます。 - -
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- -## 【プログラム】 -### 第1部:先輩的文献の読書会(20:00-20:30/30分) -この企画のきっかけになった2冊の本――『原稿料の研究』(1978)と『作家の原稿料』(2015)をはじめとした参考文献を紹介しました。原稿料の歴史、コンテンツビジネス各界の契約書ひな型、文化と経済について学びたい方のためのブックリストなどなど。後半にはスタッフ紹介も。 - -* オープニング:2分 -* 文献紹介:5分 -* 要点サマリ―:10分 -* 自己紹介とスタッフ紹介:10分 - - -休憩:3分 - - -### 第2部:トーク番組「読み書きとお金にまつわるエトセトラ」(20:30-21:30/60分) -読み書きに関わる新しい働き方をめぐって、3人の方にお話しいただきました。創業のいろは、コミュニティ作り、ライスワーク/ワイフワークのバランス、クリエイターエコノミーの未来など、多岐にわたるトピックを扱いました。 - -* オープニング:3分 -* コーナー1:25分「「個の対話」を大切にする、me and you社の創業とこれから」 - * ゲスト:野村由芽さん・竹中万季さん(株式会社me and you)、聞き手:小澤 -* 場面転換と告知:3分 - * ショートスピーチ:高橋文樹さん -* コーナー2:25分「持続可能で・透明な「出版」の潜在性」 - * ゲスト:熱海凌さん、聞き手:笠井 -* 場面転換と告知:3分 -* エンディング:3分 - - -休憩:3分 - - -### 第3部:「作家の手帖」準備号の感想会(21:30-23:30/120分) -準備1号に執筆された6名の方に、どのように執筆を進めたか、「原稿料」と聞いて思い浮かぶことなど、記事校了後のインタビューを行いました。また、第2部・第3部の幕間に、5人の方にお話しいただきました。出版企画、兼業で書くこと、現代美術界のお金と契約、ライティングの哲学、サラリーマン巡回問題など幅広いテーマが語られました。 - -* イントロダクション:5分 -* 原稿1:15分 - * ゲスト:ひらりささん -* 場面転換と告知:3分 - * ショートスピーチ:樋口芽ぐむさん -* 原稿2:15分 - * 伏見瞬さん -* 場面転換:3分 -* 原稿3:15分 - * ゲスト:poroLogueさん -* 場面転換と告知:3分 - * ショートスピーチ:棒さん - - -休憩3分 - - -* 原稿4:15分 - * ゲスト:関口竜平さん -* 場面転換:3分 - * ショートスピーチ:seshiappleさん -* 原稿5:15分 - * ゲスト:大滝瓶太さん -* 場面転換と告知:3分 - * ショートスピーチ:大滝瓶太さん -* 原稿6:15分 - * トーク:うっかりさん -* クロージング:5分 - * トーク:笠井・小澤 - -## 【著作権表示 / Copyright Notice】 - -本番組では、下記のサイトで公開されている著作物を利用しました。 - -We will use copyrighted materials published on the sites shown below on this program. - -* 音楽 - * [FesliyanStudios](https://www.fesliyanstudios.com/) : Licensed for commercial use - * [DOVA-SYNDROME](https://dova-s.jp/) - * [騒音のない世界](https://noiselessworld.net/) -* 効果音 - * [効果音ラボ](https://soundeffect-lab.info/) - * [OtoLogic](https://otologic.jp/) : CC BY 4.0 - -# [TOPページ](./index.md) - diff --git a/fushimi.md b/fushimi.md deleted file mode 100644 index 6ce2a371..00000000 --- a/fushimi.md +++ /dev/null @@ -1,74 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 伏見瞬「『ズレ』が『ズレ』でなくなる時」 - -# 担当する目次 -7.選考:基準/システム/書評/選評/批評/受賞 - -# プロフィール -文筆の悪魔 - -# 初稿 -## 1.インディペンデント批評誌『LOCUST』のコンセプト - -[「LOCUST(ロカスト)」](https://locust.booth.pm/)という雑誌を十数名の友人とともに自費出版していて、編集長を担当している自分でもとても素敵な雑誌だと思うのだが、最近の状態に悩んでいる。やる気が出ないというと言い過ぎかもしれないが、どうにも、製作に力のこもらない感じがするのだ。リーダーがこれでは良くない。困っている。 - - 「LOCUST」は旅行と批評をかけあわせた雑誌である。毎回、特定の場所に集団で旅行に行き、互いの考えや感じ方を交換した上で、批評文やエッセイを執筆し、互いに編集する。2018年からこれまでに4冊を刊行し、この秋には新刊を出す予定だ。これまで、順に「千葉内房」「西東京」「岐阜(美濃地域)」「長崎」と旅行してきた。観光地のイメージがついていない場所に行く傾向にある。 - - 現在編集部員は12名。ほぼ全員が執筆と編集を兼ねており、経理や営業担当もいる。ゲスト執筆者にも数名、旅行から一緒に参加していただいており、インタビューも掲載している。 - -【例年の制作スケジュール】 -- 2〜3月 訪問先とゲストを会議で選定 -- 4〜5月 各種調整、依頼 -- 7月 旅行実施(今年は5月に実施) -- 8月 原稿執筆 -- 9月 校正・校閲 -- 10月 デザイン(原稿完成時にデザイナーチームに引き継ぎ) -- 11月 宣伝→販売 -  - - 完成した雑誌は、文学フリマ、通販サイトBOOTH、独立系書店、手売りで販売している。精算は1年ごとに行う。編集部員の作業量の不均衡、書店への精算の遅れなど、仕組み上の課題や問題はあるものの、少しずつ体制を定めてきた。自分たちで誇れる本が作れてきたと感じているし、売れ行きもリアクションも予想外に大きかった。「こんな雑誌はじめて読んだ」「クオリティが高い」という声を多くいただいたし、全号購入してくれている方もいる。1号、2号は完売したため、3号からは印刷数を倍にしたが、その在庫も残り少ない。手応えのある活動ができていることは単純に嬉しいし、その手応えが次のモチベーションにつながる良いサイクルもできている。そう感じていた。  - - しかし、ここ数ヶ月、ずっとモヤモヤしていた。「LOCUST」が上手くいっている実感がどうにも持てないのだ。最初は単純に作り続けることのマンネリ感や、会社員生活を維持しながら他の原稿仕事を抱えている自分の忙しさのせいだと思っていた。それもあるが、最近原因が別のところにあることに気づいた。 - -  - - 私は「ズレ」に惹かれ続けた人間だ。「LOCUST」でも、「ズレ」を意識してきたが、今、それが機能しなくなってきている。 - - 私も以前に出演したSpotifyのpodcast番組「pop life the podcast」の[第131回(編集者の24時間・365日:下田桃子さんの場合 Guests:宇野惟正、下田桃子)](https://open.spotify.com/episode/4f9qgBITE5QRX0Pm31KjVT?si=fPwIBZUpT_Swlw56oMedlA&dl_branch=1)で、「雑誌が軒並みに部数を落としている中、文芸誌だけがここ数年部数を上げている」という話がでていた。実際、「文藝」群像」といった老舗の文芸誌がリニューアルを行い、特集の組み方や論点の提示を工夫し、ネット書店での売り切れや増刷など、盛況を見せている。放送の中では、ホストの田中宗一郎氏がその状況を「イデオロギーが強く、ライフスタイルが弱い時代」と分析していた。ある種の思想・イデオロギーの表現に支持が集まり、生活や流行に根ざしたライフスタイルを提示する雑誌が衰退している。この分析の是非は置いといて(私は正しいと思う)、重要なのは、「イデオロギー」と「ライフスタイル」の対立項が、私にとってどちらも愛着の対象で、それが「LOCUST」のコンセプトに大きく関わっている点だ。 - - -## 2.「ズレ」を生み出す雑誌の仕組み - -「LOCUST」が旅行をテーマにするきっかけは半ば偶然だ。この雑誌は「ゲンロン批評再生塾」という批評を学ぶ集まりの、第3期の同期生によってはじまった。先達にあたる人々の多くが同人誌を作っており、「うちらもやるっしょ」という空気が自然とできていた。ただし、批評に興味がある点を除いては、参加者はバックグラウンドをほとんど共有していない。得意分野は音楽・映画・演劇・美術・文学・都市論などバラバラ。職業もさまざまで、学生もいれば、医者や学習塾経営者もいる。そこで浮かんだアイディアが「旅行」だった。旅行に行って、その土地に関わる本や映画などを取り上げれば、ジャンルが異なっていても一本の筋は通せると考えた。もともと旅行自体に興味があったわけではない。 - - 私が旅行というアイディアに興奮していたのは、「ズレ」を生む力がそこにあったからだ。一般的に旅行は「ライフスタイル」に属する行いだろう。旅行は多くの現代人にとって趣味の一つだし、旅行に「イデオロギー」を求める人はいないだろう。言い方を変えれば、旅行誌にシリアスな社会批評や哲学論文は求められていない。「LOCUST」の制作メンバーは明らかに批評や哲学や芸術に惹かれていた。書く文章だって、文芸誌に載るタイプのスタイルを有する。だから「ライフスタイル」側の旅行誌のふりをして、「イデオロギー」側の批評的な文章を載せると、面白い「ズレ」が生まれると思った。 - - 一番こだわりたかったのはデザインだ。一般的な文芸誌や批評誌のスタイル、白黒で縦書きの文字が並んでいる形式だとつまらない。むしろその逆、カラーで横書きに刷るべきだと感じていた。多くの旅行誌、カルチャー誌、ファッション誌のスタイル。「ライフスタイル」型の形式を採用するのは絶対に必要だと思って、反対意見を説得した。「ライフスタイル」を求めて買った人が「イデオロギー」を発見する、あるいは「イデオロギー」を求めてた人が「ライフスタイル」を発見する。期待していたものからの「ズレ」によって、読者に豊かな体験がもたらされる。それぞれの立場にとっての新鮮さが生まれると思ったし、学生の時からその両方が色濃く含まれる雑誌があればいいのにとなんとなく考えていた。 - - とはいえ、アイディアだけあっても実現はできない。「LOCUST」は幸運なことに、優れたデザイナーと出会えた。雑誌の構想をデザイナーに説明した時は、今までにない雑誌だし、自分でも完成像がイメージできていなかった。最初はチグハグなものになっても仕方がないし、少しずつ修正するしかないと思っていた。しかし、結果できあがったものは、自分が想定していたよりもはるかに力のあるデザイン。[文章にイラストや写真を組み合わせたページ構成](https://locust.booth.pm/items/1113008)は、批評誌では見たことがない。自分の夢想していた「ズレ」の作用が、そこで見事に実現していた。デザインチームをまとめている[山本蛸さん](https://octopako.xxxxxxxx.jp/)は、デザイナーとしての技量はもちろん、イメージを具体化する力にとても長けているのだと思う。そこまで綿密に打ち合わせを重ねているわけではないけれど、最低限のやりとりから、最大限のものを引き出してくれる。vol.3以降は、[各原稿それぞれに合わせたデザイン](https://locust.booth.pm/items/1690085)を形にしてくれて、より強力な本になった。デザインにはもっと四苦八苦すると予期していたから、早くから高水準を達成できたのはとてつもなくラッキーだった。 - - -## 3.「ズレ」ることに「素直」になる - - 実際、LOCUSTはさまざまな人が興味を持ってくれる雑誌になったと思う。発行部数以上に、特定のグループ・クラスタを越えて読まれることが誇りだった。批評好き以外にも、音楽や美術を好む人、あるいは街や地域に興味のある人にも多く読んでいただいている。私淑している音楽家から「普段は本を読まないけれど、この本は独特でとても面白い」と言葉を頂いたのは大きな励みになった。旅行先の場所に住む人からも温かい反応があったし、全く別の地方からの購入も少なくなかった。年齢や性別にも偏りを感じない。「イデオロギー」と「ライフスタイル」の間の「ズレ」を活かす戦略は、上手く機能していた。   - - しかし、コロナ禍以降、その掛け合わせが難しくなってしまった。「旅行」が気軽にできるライフスタイルの一部ではなくなってしまったからだ。むしろ、「旅行」はイデオロギー的な行為になっている。旅はリスクを伴う営みであり、その実践は思想的なメッセージの表明を内包する。集会の自由、移動の自由には大きな意味があり、その実践を止めてはいけない。LOCUSTの活動も、人が集まり移動することの意味を雑誌として物質化するからこそ価値がある。しかし、そこに「ライフスタイル」的な、生活の一部として気軽に楽しめる旅行はない。かつて「旅行誌」にあった、軽薄さや気安さは失われてしまった。     - - 元のコンセプトに忠実であるなら、「旅行」に替わる要素を、「LOCUST」に加えなくてはいけないだろう。今のところ具体的なことは思いついていない。極端な話、「旅行」をやめて別のなにかをはじめるかもしれない。 11月には新刊が出るが、今回はその途中経過のような文章になった。ただ、「ズレ」が生じていない状況に気づいて、私のやる気はかなり復活した。状況の認識はいつでも良い治療法だ。 - -  私は「ズレを作る立場からズレてはいけない」と直感している。個人的には、ズレを意識していたほうが単に生きてくのが楽しいってだけなのだけど、文筆という営みそのものもズレたままでいることを肝要としているだろう。それはあえて捻くれた立場を取ることとは違う。そもそも私たちは誰もがズレているのであって、社会にはズレを消しさる作用が強烈にある。その作用とは別の力を生み出すこと。それは素直であるということだ。その人そのものであるということだ。   - - 私たちにはズレながら生きる権利がある。そして文筆は、「その人がその人自身になる」という目的を実現するための手段だ。文筆に関わる編集や営業は、「その人自身」を世の流れに流通するために存在している。個人と社会が正しくズレ続けるために、私たちは文筆を要望する。 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/hirarisa.md b/hirarisa.md deleted file mode 100644 index 9e702dc9..00000000 --- a/hirarisa.md +++ /dev/null @@ -1,128 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# ひらりさ「原稿料をとりっぱぐれたくない私のセブンルール」 - -# 担当する目次 -6.契約・交渉:決裁/見積/合意形成/発注/納品/検収/請求/支払 - -# プロフィール -1989年生まれ、東京出身。ライター・編集者。ユニット「劇団雌猫」メンバーとして同人誌「悪友」シリーズを、また個人として同人誌「女と女」を刊行している。 - -# 初稿 -## 1. 出版社は倒産する -兼業ライターとして初めての原稿料は、3万3750円だった。 - -ある冬のこと、ウェブメディアで働いているときに仲良くなった著者さんから、紹介案件が舞い込んだ。その雑誌が初めて組むボーイズラブ特集で、作家インタビューの一つを取材・構成して欲しいという。ライターとしての実績がほとんどなかった私にとっては、とても嬉しい依頼だった。 - -取材はつつがなく終わった。担当編集の振る舞いや赤入れもそつなく、最後まで気持ちよく原稿に取り組めた。作家さんからもお礼の言葉が届き、雑誌も無事発売。同特集を取り上げたネット記事もたくさん出た。 - -発売翌日に、担当編集のAさんからお礼メールが来た。 - -「最終的に4500文字になったので、¥33,750-(税込み)ということでお支払いさせていただきたい。紙でも添付でもいいので請求書を発行してください」 - -私はすぐに請求書を返信し、翌日、Odette et Odileのロングブーツを買った。税込で3万円ちょっと。靴にそれだけのお金をかけたのは初めてだったが、「そのうち入る分を先に使ったんだ」と言い訳をした。 - -しかし、翌月末も、翌々月末も、口座への振り込みはなかった。 - -紙の業界の支払いサイトはわりと長いと聞くが、3ヶ月経つと、さすがに焦る。Aさんにメールをしたが、音沙汰がない。取材に同席していたBさんにも連絡してみると、返事が来た。 - -「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。編集Aのほうが前号の校了後体調を崩していたので、お手続きが滞っていたのかもしれませんね。早くお支払するよう、経理にも連絡してみます」 - -私は胸を撫で下ろしたが、事態はそれでおさまらなかった。結局、その月末にも、支払いがなかったのだ。 - -その後も何度かメールを送ったが、Bさんからは「経理に問い合わせています。本当に申し訳ありません」という返信が来るばかり。お詫びは丁寧だし、仕事は楽しかったし……。 - -悩んでいると、真実はネットニュースから飛び込んできた。 - -《XXXX社が民事再生申し立て 「XXXX」など出版の老舗》 - -この年の出版業者の倒産件数は38件。ベテランであれば常に覚悟しているかもしれない。しかし、駆け出しライターにとっては青天の霹靂で、脳内にはただ「ぎょぎょぎょ……」という擬音が浮かぶばかりだった。 - -2週間ほどして、1通の封書が届いた。2枚の紙が入っていて、破産手続開始通知書と債権者説明会御案内、と書かれていた。そうか、私は「債権者」なのか、と神妙な気持ちになった。選択肢は2つあった。 - -1. 債務整理がだいたい終わって、残った資産を希望する債務者で分配するのを待つ。いくらの債務が解消されるかはわからない。 - -2. 1万円以上の債務を放棄して、1万円だけ手に入れる。通知をしなければ自動で選択される。 - -気力はすでにマイナスに振れていた。私は、1万円だけ回収することを選んだ。玄関に鎮座するつやつやのロングブーツが、その後しばらく、己の浅はかさを思い出させるのだった。 - - -## 2. 編集者は嘘をつく -心の傷も癒えかけていたある年、次の事件は起きた。 - -数年来の知人編集Cさんから依頼された仕事だった。とある人気テレビ番組のトーク内容を、対談形式にまとめた本を作りたいのだが、ひらりささんに頼めないだろうか、というFacebookメッセが送られてきた。私はその番組を楽しく視聴していたので、「ぜひ!」と飛びついた。 - -ライティング料は、30万円。台本をベースに書籍に見合ったボリュームの原稿に整える仕事で、それほどの労力はかからないだろうと条件も了承した。とにかく台本が送られてくるたびに打ち返し、dropboxにあげていった。3月刊行予定と聞いていたが、私が最後の原稿をあげたのは、3月半ばになった。 - -まだ番組関係者が確認していないのは明らかで、発売日はずれるだろうし、リライトの必要もありそうだ。Cさんからはメッセでちょくちょく「本文フォーマットに合わせて字数を調整してほしい」「オンエアと台本で微妙に空気感に差があるのをうまく調整してほしい」などのオーダーがあり、細かく対応していたのだが、4月に入ると、途絶えた。正確に言うと、他の案件の愚痴などはメッセで送ってくるのだが、書籍の話をしなくなったのだ。 - -私の原稿のレベルが低く、番組関係者が呆れているのだろうか。数週間悩んだ後、恐る恐る、「本の件、大丈夫ですか?」と連絡してみた。 - -間をおかず「ちょっと苦しいです……」と絞り出すような返信が返ってきた。 - -「ゲラを見せないで本が出るということはないです。ただ、向こうの赤字がすごくて、原形を留めないレベルになっていて……。ひらりささんには申し訳ないです。発売、6月末になるかも。先に原稿料請求していただくなど、考えます」 - -この時は彼女を信頼していたので「大丈夫ですよ!私は当座のお金に困っているとかでもないので……。お疲れ様です!」とねぎらいのメッセージを送った。 - -6月になっても、7月になっても、進捗はなかった。支払情報も渡したが、振り込みは刊行後とのことだった。Amazon上の発売予定日は断続的に後ろ倒されていた。対照的に日に日に増えたのが、編集部のパワハラに悩んでいる、実は転職準備をしている、という彼女の愚痴だった。 - -8月の昼下がり、私は、それまで対面することがなかった、番組のディレクターDと会うことになった。編集C本人が私たちを繋いだのだ。企画している別番組で、オタク文化を取り扱う予定があるので、先方が、私に話を聞きたいとのことだった。 - -Dさんはハキハキとした女性で、ヒアリングはスムーズに進んだ。より詳細なリサーチに協力する場合の謝礼金額も明示してくれ、ランチは和気藹々のまま終わった。 - -席を立つ直前、私は言おうか悩んでいたことを聞いた。 - -「あの、番組本の発売日がどんどんずれていますよね。Cさんからは制作サイドのチェックをとても丁寧にしてもらっていると聞いています。私の原稿が拙くてそちらの意図が汲めてなかったのかなと、今日は若干申し訳ない気持ちがあったんですが……なんとかなりそうでしょうか」 - -Dさんは、怪訝な顔をした。 - -「えっ……私たち、まだ原稿ちゃんと見れてないんですが……」 - -どういうこと??? - -「デザイナーさんが本文デザインで色々物言いをしているので待って欲しいとずっと言われていて。所々は送られてきたんですが、全部は見れてないんですよ。今のままじゃ9月刊行も無理だと思います。別番組の制作もあるので困ってるんですけど……」 - -私は帰宅後すぐに、Cさんへ抗議のメッセを送った。Cさんは謝罪こそしたものの、その何倍もの分量で、上司のハラスメントのせいで判断能力を失っていたし転職活動でもいっぱいいっぱいで頭がうまく回っていないのだ、と添えてきた。 - -心身が限界なら他の人に引き継ぎしてほしいと言っても、編集部のリソース上難しいと拒否された。何も解決していない中、彼女のFacebookのステータスが「退職」になった。私は最終的に、編集部の代表番号を調べて電話をかけた。事態を把握した編集長はすぐに謝罪のメールをよこし、原稿料は書籍の刊行を待たず、9月末に支払われた。 - -そろそろロングブーツを出すか、と思い始めた時期に、書籍はなんとか刊行された。私は送られてきた献本の表紙を一瞥して、Facebookで告知することもなく、本棚の奥に押し込んだ。 - -## 3. 持つことにした自分なりのルール -ここまで読んできて「納品から60日過ぎての未払いは下請法違反だったんだから、もっと厳しく催促すればよかった」「ちゃんと発注書を出してもらうべきだった」「そもそもメッセでやりとりするのはやばい」と、私の愚かさに突っ込みを入れたくなった読者もいるだろう。今の私も思うよ! - -ただ業界体質というのは根強いし、「自分は未熟だから仕事がもらえるだけでもありがたい……」と下から目線で働いているライターは、私以外にも多いのではないか。案件が知人経由で来ることが多いために、強く言えないのもある。 - -公取委の動きもあり、下請法を守って発注・支払いを行うウェブメディアは若干見受けられるようになった。一方、紙の業界は、業界慣習と下請法のすり合わせがうまくできていないように感じる。ライターの原稿提出がずるずると遅れるケースや、いざ書いたらどう直しても当初の目的を達成できないクオリティで話をなしにするケースもあり、事前に契約書を作りづらい事情もあるとは聞く。 - -現在、私はできるだけ以下のセブンルールを守って仕事を請けている。 - -1. 原稿料だけでなく、文字数や作業範囲、支払いサイトも事前に確認する - -2. 条件は必ずメールで送ってもらい、その後のやりとりもメールに残す - -3. 何かあった時に相談できるよう、同じ編集部の別の編集者ともつながりを持っておく - -4. 支払い関係でちょっとでも不信感があったら、次の仕事は請けない - -5. 同業者と情報交換し、取引先の与信をなんとなく確認しておく - -6. マジでニッチもサッチもいかなくなったら、代表番号に電話 - -7. 入っていない原稿料でご褒美を買わない - -自分的にはこれはアウトだな〜と思った版元や雑誌が問題なく存続していて、他の同業者たちも問題なく仕事を続けていることもある。過剰に反応してしまったかなと省みることもあるが、トラブルが起きるかどうか以上に、「気持ちよく仕事ができること」が大事なので、まあいいかと割り切っている。 - -もちろん関係性というのは相互に成り立つものだから、発注サイドが書き手に求める信頼要素もたくさんある。最たるものは締め切りへの姿勢だろう。締切日を過ぎた深夜1時半に泣きながらこの原稿を書きつつ、己の信頼性も高めていきたいと思うのだった。 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/index.md b/index.md index aafe674f..05401fb9 100644 --- a/index.md +++ b/index.md @@ -36,76 +36,11 @@ layout: default ## これまでのあらすじ 4月18日に情報解禁され、執筆者とスタッフを公募。[「共通執筆依頼書」](request.md)をもとに作業を依頼し、テキストを執筆・編集。8月18日に準備1号が完成し、8月21日には刊行記念のオンライン勉強会を行いました。9月末まで「清算」「休養」期間に入り、10月から次の企画がまた始まります。全20の目次に記事が揃うまで、活動を続けます。 -## スタッフ紹介 -- 執筆者(8名)[笠井康平](kasai.md)、[うっかり](ukkari.md)、[ひらりさ](hirarisa.md)、[伏見瞬](fushimi.md)、[大滝瓶太](ohtaki.md)、[関口竜平](sekiguchi.md)、[小澤みゆき](ozawa.md)、[poroLogue](porologue.md) -- 編集者(3名)笠井康平、小澤みゆき、Raise -- 制作事務(2名)笠井康平、小澤みゆき、皐月うしこ -- デザイン(1名)月城美穂 -- 校閲・校正(1名)北出栞 -- 印刷オペレーション(技術サポート)(2名)小澤みゆき、paina -- 会計(2名)しお、木田愛希 -- 監査役(1名)poroLogue -- 勉強会の配信実務(1名)seshiapple -- 勉強会の登壇者(2名~)熱海凌、竹中万季・野村由芽(株式会社ミーアンドユー) -- 勉強会のショートスピーチ(7名まで)高橋文樹、樋口芽ぐむ、棒、seshiapple、大滝瓶太 -- Special Thanks - - 資料提供(2名)長瀬海 野崎タラ - - 3Dモデリング(1名)清水香央理 - - GitHub Contributors(4名)[ATOHSaaa](https://github.com/ATOHSaaa) [MATSUMOTO Katsuyoshi](https://github.com/katsyoshi) [Kato Akiru](https://github.com/paithiov909) [sakaiharuka](https://github.com/sakaiharuka) - -## 準備1号の目次 -【1.企画趣旨】 -- [笠井康平「原稿料400年の歴史――どうして作家は昔からいまいち儲からないのか?」](kasai.md) - -【4.原稿料】 -- [うっかり「俳句とお金」](ukkari.md) - -【6.契約・交渉】 -- [ひらりさ「原稿料をとりっぱぐれたくない私のセブンルール」](hirarisa.md) - -【7.選考】 -- [伏見瞬「「ズレ」が「ズレ」でなくなる時](fushimi.md) - -【8.執筆】 -- [大滝瓶太「WEBライティングの熱力学的な死――──そのテクストの「意思」の所在」](ohtaki.md) - -【15.流通・販売】 -- [関口竜平「書くということ——ただ「置く」だけではない、<メディア>のひとりとしての書店」](sekiguchi.md) - -【16.パブリシティ】 -- [小澤みゆき「PRのための「周辺」原稿](ozawa.md) - -【18.財務・会計】 -- [poroLogue「原稿料はどう決める?――Webメディアの副編集長が作り上げた「事業と財務」の対話を促す経理の仕組み」](porologue.md) - -[勉強会の時間割](event-vol1.md)も公開しました(2021/8/8)。 +*※2023年11月21日、[新サイト(https://genkoryo.com/)](https://genkoryo.com/)へのリニューアルに伴い、準備1号のコンテンツは非公開としました。* ## もっと知りたい方へ [README(「作家の手帖(特集:原稿料)」企画書ワーキングドラフト)](https://github.com/Writer-Life-Committee/authors-note/blob/main/README.md)をごらんください。 -# 参加方法 - -## 購読希望の方へ -[STORES](https://authors-note.stores.jp/)で参加チケットを販売しています。購入すると、次の特典を受け取れます。 -- 完成稿(PDF/epub)の入手 -- 制作過程(草稿/編集稿/初稿/校正稿)の赤入れやコメントの閲覧 -- オンライン勉強会のアーカイヴ動画視聴 -- 参加者コミュニティ(Discord)への参加 -- 招待状(紙)(残部数限り) - -このささやかな取り組みを支援していただける方は、ぜひ参加チケットをお買い求めください。 - -
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- -## 執筆者・制作スタッフの応募 -[企画書](https://github.com/Writer-Life-Committee/authors-note/blob/main/README.md)、[参加規約](https://drive.google.com/file/d/1sdMW6EdLK1p4aA9PHed0taeW_L3otoYH/view?usp=sharing)、[プライバシーポリシー](https://drive.google.com/file/d/1ZODNOIVU4Qmu_jOpr68ruonYXJYiKA05/view?usp=sharing) -をお読みいただいた上で、Googleフォームからご応募ください。執筆・登壇・制作スタッフ募集のほか、体験談の投稿(匿名可)もあわせて受け付けます(2021/4/18)。 -10月以降に次の企画をご案内します。ご関心のある方は、お気軽にご応募ください(2021/8/25)。 - ## 共通執筆依頼書 「作家の手帖」に執筆者として応募したい方、編集部が執筆依頼したい方に伝えるための[「共通執筆依頼書」(Common Request for Writing)](request.md)を公開しました(2021/4/25)。 diff --git a/kasai.md b/kasai.md deleted file mode 100644 index 50ee094e..00000000 --- a/kasai.md +++ /dev/null @@ -1,130 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 笠井康平「原稿料400年の歴史――どうして作家は昔からいまいち儲からないのか?」 - -# 担当する目次 -1.企画趣旨:「作家の手帖」企画書/事務書類/先輩的文献の紹介 - -# プロフィール -1988年生まれ。東京都在住。会社員。著書に『私的なものへの配慮No.3』(いぬのせなか座)。近著に「文化芸術の経済統計枠組みはいかにしてテキスト品質評価指標体系の開発計画に役立つのか」「文化と経済をめぐるブックリスト」「現代短歌のテキストマイニング――𠮷田恭大『光と私語』(いぬのせなか座)を題材に」。すきなものが、すきです。 - -# 初稿 -## はじめに - 「原稿料」にはたくさんの用法がある。謝礼金、着手金、成果報酬、著作権使用料、年俸・月給、業務委託費、収益分配、製造原価、ユーザ行動の対価を指す。値付けに関わる要素も多い。メディアの収支構造、流通量、作者の人数・待遇、職域・業務量、読者の可処分所得・時間ーー。 - - 世界のインターネット人口は、2020年に46億6千万人(前年比7.3%増、対全人口比59%)に達した。出版市場シェア世界最多のレックスグループは、科学・医療・法律の専門メディアとデータサービスを手がける。原稿料の慣習も変わるだろう。次の50年には、100年以上続いた文字単価と発行部数の時代が終わり、時間単価と読了率が主流になる日も来るかもしれない。 - - その日に備えておさらいしよう。原稿料をめぐる歴史は、情報技術の発展とともにあった。ざっくり半世紀ずつ区切ると、1.木版印刷以後、2.書籍商以後、3.貸本屋以後、4.活版印刷以後、5.普通教育以後、6.物価高騰以後、7.インターネット普及以後の7区分で考えられる。 - -## 「本」はみんなで借りて読むもの -### 1.木版印刷以後(1700-1749) - 原稿料のトラブルは、日本では1693年からある。井原西鶴は「写本料」300匁を前借りしたまま死んだ(1)。 - -(1) 『作家の原稿料』(2015, 八木書店)より。第3章までの史実も同書に拠る。 - -### 2.書籍商以後(1750-1799) - その50年ほどあと、書籍商「竹苞楼」の創業者佐々木春重(2)が、(狂)詩集や笑い話、恋占いの出版費用に「作料」を計上した記録がある。本の印刷・流通コストはまだ高く、作者は出版者と共同で費用負担していた。業務報酬というより、共同事業者への利益分配だろう。 - - (2)屋号は銭屋惣四郎(初代)だった。 - -### 3.貸本屋以後(1800-1849) - 18世紀末になると、有力な出版者が人気の戯作者を囲い込もうと、「潤筆料」(3)と呼ばれる着手金を払うようになった。山東京伝や曲亭馬琴らが受けとった。これを日本初の原稿料とする説もある。 - - とはいえ貸本屋が江戸・大坂に数百軒ずつといった時代で、本はまだパーソナルメディアではなかった。貸し借りや読み聞かせで享受される、都市の共有財だった。人気作家でも初版は数百ほど。原稿料は販売好調の謝礼に近かった。 - -(3)あるいは筆耕料とも言った。 - -## 複製技術時代の人気商売 -### 4.活版印刷以後(1850-1899) - 19世紀後半に入ると、ヨーロッパ由来の印刷技術が導入され、次第に新聞が数万部、雑誌が数千部、書籍が千部規模の読者を集めるようになる。 - - 明治政府は、出版条例(1869年)を経て、著作権法(1899年)を制定する。 - - 1作ごとの買い切りだけでなく、原稿用紙1枚あたりの報酬計算も始まる。印税支払も始まる。とはいえ書籍の増刷は珍しかった。時には後払いの印税より、前払いの原稿料が喜ばれた。印税率は10%ほどから始まり、増刷のたびにあがって25%にもなる例があった。 - - もっとも、文士録など公刊資料に記載された自営業者「作家」は百数十人ほど。文化史に名を残す作家でさえ、専業では家計を支えられず、新聞社に籍を置き、企画・執筆・編集を兼任していた。 - - 例外的に出版契約を結ぶ慣行もみられる。夏目漱石だ。しばしば条件交渉を行い、報酬や印税率を引きあげたり、職域を執筆に限ったり、出版権を手元に留めている。朝日新聞社との商談記録は、「営業部に不満は言わせない」など、現代の出版契約ひな型にもない細則まで合意されていて、いまでも参考になる。 - -### 5.普通教育以後(1900-1949) - 1920年代には、識字率の上昇と都市人口の増加によって、数十万部規模の雑誌が登場する。全集ブームや婦人誌・児童誌の創刊など、読者の間口を広げる新規事業も次々と生まれた。講演・講座が人気を集め、地方巡業が作家の重要な収入源になった。 - - 印税収入で高額所得を得られる作家・出版者も登場する。出版ビジネスは投資する魅力のある新分野だった。 - - ベテラン・有名作家と新人・無名作家の収入格差が(愚痴・小言として)問題にもなった。共産主義が弾圧される一方、執筆者の相互扶助が社会実験として注目され、業界団体も結成される。著名作家がラジオ・映画産業のインキュベーションに貢献してもいる。 - - 第二次世界大戦の戦況が悪化すると、言論統制と用紙供給規制が、出版産業そのものの存在意義を危うくするけれど、皮肉にもこの政治圧力が、戦後のコンテンツ産業の組織化を準備した。大手の広告代理店や出版取次も、前身は戦時下の官民連携政策で生まれた。 - - 原稿料は1枚1~5円ほどの例が目立つ。現在の金額に直すと、原稿料は2,600円/枚から13,000円/枚ほどか(4)。 - -(4)当時は米1升(約1.5kg)の小売価格で0.2円から0.3円。1kgあたり0.13円から0.15円になる。直近3年の米の小売価格は5kgで2,000円ほど、1kgあたり400円になる。米の物価は2,600倍ほどになっている。 - -## 視聴者増、物価上昇。原稿料は? -### 6.物価高騰以後(1950-1999) - 画像・動画メディアの「原稿料」に関する文献は少ない(5)。それでも、週刊誌やテレビ番組は、他のメディアと比べて原稿単価が高いとする証言は散見される。 - - 人気と信頼に裏付けられた広告収入が、販売収入だけに頼らないメディア経営を可能にし、収益を制作費へ十分に投じられたのだろう。文筆業の人口も比例するように増え、作詞家やドラマ脚本家、構成作家、報道記者、コピーライター、ゲームシナリオライターが、新たな職業として注目される。漫画市場の広がりは、1960年代に週刊誌が始まり、1975年のコミックマーケット創設を経て、1995年に部数競争の頂点を迎える。高額納税者になる漫画家も次々と現れる。 - - それ以降の時代潮流は、まとまった研究がまだ見つからない。儲け話は慎まれるから、負の出版バイアスはあるけれど、不遇を託つ証言には事欠かない。レジ打ちのほうが稼げると自嘲する小説家、馬車馬のように働いても年商1,000万円を超えないフリーライター、取材費・資料費がかさんで赤字になりやすいノンフィクション作家、原稿単価1万円でも中堅会社員の平均年収にしか相当しないという人気作家――。 - - 戦後に何が起きたのか。1960年から1980年までに、モノの値段(消費者物価指数)は3倍近くになった。2020年までにはさらに20%ほどあがった。『原稿料の研究』の編集者匿名座談会によると、1978年当時の最低価格は2,000円/枚ほどだという。いまの物価なら2,400円/枚に相当する。なんと、戦前よりも下がっている。 - - 出版統計をみると、書籍(1988年)・雑誌(1995年)の販売金額がピークを迎えたあと、市場規模が半分に減る一方で、新作の刊行点数は8倍に増え(1954年に約1万点、2015年に約8万点)、売上・人気も二極化した。供給過剰の弊害が生じるわけで、市場全体でみれば1冊あたりの収益が増えるはずもない。 - -(5)「制作費」の調査統計はある。 - -### 7.インターネット普及以後(2000-2050) - 日本の家庭用インターネットは1995年に解禁された。21世紀に入ると、携帯電話の普及に後押しされて、インターネット人口は過半数を超えた。 - - 識字率が高く、インターネット回線が行き届いた地域では、ホームページ、掲示板、ブログ、SNSなどでテキストを執筆・公開する個人が急増した。デジタルメディアの可処分時間も急伸し、2018年にメディア接触時間シェアが50%を超えた。機械翻訳や音声認識、文章生成の技術も普及期に入った。「本」の作者/出版者/読者ではなく、「画面」の出演者/配信者/視聴者として過ごすひとがさらに増えたわけだ。 - - 日本のネット広告を牽引する企業は多くが1995年前後に創業している。市場拡大に伴って、インプレッション(imps)、ページビュー(PV)、ユニークユーザー(UU)、滞在時間、クリックといった指標が、効果測定に使われるようになった。指標は費用と結びつけられ、ユーザ行動1回あたりの収益性が評価される(6)。 - - ユーザ行動に値段がつくと、高品質なコンテンツより、検索と解析の技術が競争力の源泉になった(7)。プラットフォーマー(8)が市場支配力を持ち、オーディエンスデータが売買され、インフルエンサーが集客力と発言力を兼ね備えるようになった。 - - コンテンツの出版者は、プラットフォーマーと共存しつつも、低額な配信収入や広告効果の不透明さをきらって、定額会員制による顧客育成へ事業基盤を移しつつある。新型コロナウイルス感染症の蔓延で、広告主はこぞって宣伝費を減らしたのに、ネット広告だけは成長していて、ウェブメディアの統廃合や、投資ファンドによるメディア企業の買収に拍車をかける。 - -(6)Adjust「グローバルベンチマーク」によれば、同社が観測する7,000以上のアプリを対象にした調査で、2019年のウェブ広告のクリック単価は0.16ドル(17.5円)から0.19ドル(20.8円)で推移したという。 - -(7)データの民主化も進んだ。Googleアナリティクスの元になるアクセス解析ソフト「Urchin」は1996年に生まれ、2005年にGoogleに買収された。Google社は同サービスを無料提供する。他の多くのプラットフォーマーもそうだ。 - -(8)ポータルサイト、検索エンジン、ソーシャルメディア、ニュースアプリ、コンテンツ配信サービス、オンラインゲーム―― - -## じぶんの「つづき」を書こう - 書くことの民主化と機械化はこれからも続き、読むことはますます組織化され、規格化されるだろう。ダンピングを防ぎ、水増しを見抜き、注目に惑わされず、購買力を保つために。惜しみない努力に、惜しみない拍手が応える。その理想に近づけるなら歓迎だ。だけどその陰では、山のように書き、浴びるように読んだのに、ちっとも報われない不運が相次ぐだろう。 - - どうして作家は昔からいまいち儲からないのか。原稿料の近現代史から学べるのは、ごくありふれた教訓なのかもしれない。 - - 小さな理由(制作費の不足、流通量の少なさ、販売価格の安さ、不利な契約条件、非合理な再分配)、メゾレベルの理由(競争環境の歪み、供給過剰、過大な品質要求、産業政策の不整合)、大きな理由(景気後退、規制・検閲、従来技術の陳腐化)が絡み合っていて、主流の理由は時代ごとにちがう。新しい作家が生まれ育ち、病みながら老いるにつれて、気がかりな悩みが移り変わるように。 - - - 書くことは生きることだとひとは言う。では、もの書きはどう生きるか。 - - 未来を予言するほどうぬぼれてはいない。誰にでも当てはまる警句を言うつもりもない。ぼくにできる助言はひとつだけ。***あなたを損ねないで。*** 表現の奴隷にも、座興の道具にも、陰謀の養分にも、紛争の燃料にも、社会の犠牲にも、市場の仇花にもならないように。 - - 死ぬまで生きよう。じぶんの「つづき」を書こう。生き延びる知恵と、死なない工夫を分け合いながら。世界はまだ終わらない。だけど時代は変わる。まともな将来を夢見て、その日までどうかお元気で。 - -## 参考文献 -- 日本書籍出版協会「出版税務会計の要点」(1968初版, 2019第12版, 日本出版協会) -- 相田良雄「講座・出版販売の実際⑨ 在庫管理と市場調査」(1977, 定村質士(編)「エディター」所収, 日本エディタースクール出版部) -- 松浦総三(編著)『原稿料の研究』(1978, みき書房) -- 日本エディタースクール『標準 編集必携』(1986, 日本エディタースクール出版部) -- 石井政之(編著)『文筆生活の現場 ライフワークとしてのノンフィクション』(2004, 中公新書ラクレ) -- 豊崎由美(編)「書評王の島 vol.03 あなたの知らない原稿料の世界2010」(2010, 書評王の島制作委員会) -- 北山 雄樹・井庭 崇「書籍販売における定常的パターンの形成原理」(2011, 情報処理学会研究報告) -- 作家の原稿料刊行会(編著)『作家の原稿料』(2015, 八木書店) -- 桑原清幸『令和版 駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A』(2019, 玄光社) -- 笠井康平「文化と経済をめぐるブックリスト」(2020, 早稲田文学会「早稲田文学2020年冬号」所収) -- サイモン・ケンプ「Digital 2021: Global Overview Report」 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/ohtaki.md b/ohtaki.md deleted file mode 100644 index d79e0138..00000000 --- a/ohtaki.md +++ /dev/null @@ -1,273 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 大滝瓶太「WEBライティングの熱力学的な死──そのテクストの『意思』の所在」 - -# 担当する目次 -8.執筆:文体/語句/構文/内容/構成/倫理 - -# プロフィール -86年生まれ。作家。「SFマガジン」(早川書房)や「小説すばる」(集英社)で小説・書評などを執筆。 - -# 初稿 - -> 少年たちは流行のダイエット法を売り込む場合と同じく、自分たちのターゲットが欲しがりそうだという理由だけで政治に関する嘘を書き込んだ。 \ -──P. W. シンガー・エマーソン.T .ブルッキング著、小林由香利訳、『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』 - -## 自己組織化する文章表現 - -いまもってこうして文章を綴りながらも、じぶんの意思というのはわからない。 - -もちろん何かを考え、大なり小なりの伝達を試みようとはしていて、おそらくじぶん以外に書けるものではないけれど書いたじぶんですら一字一句辿りなおすことなんてできないこの文章は、果たしてどこからやってきたのか。文章は、ぼくの手で書かれながらもぼくではない意思によって構造化されていく。ぼくの意思ではなく、ライティングというシステムによって。 - -数理生物学で用いられる「適応度地形」は、ある生物個体が任意のパラメータで定義された環境にどれだけ適すかを示したグラフである(Figure1)。高いほど快適な環境を示し、従って生物個体は手当たり次第に近くの山の頂上を目指して登ろうとする。たとえば、暗闇で生きる生物は視覚を退化させ聴覚を発達させる。この運動が観念上の「進化」と呼ばれるものであり、生物個体は適応度を最大にするようにして身体機能を変化させていく。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image8.png "image_tooltip") - -**Figure 1 適応度地形(イメージ)** \ -(引用:[https://ja.wikipedia.org/wiki/適応度](https://ja.wikipedia.org/wiki/適応度)) - -しかしそれは生物個体みずからの意思ではなく、あくまでも環境に要請された変化であり、あえて大袈裟に言えば「生きよう」とする意思は生物個体の本能ですらないのかもしれない。ただそこに存在してしまったという事実が個体を生き延びさせていて、「わたし」の形を「わたしたち」は選べない。 - -問題は、局所最大値にトラップされることだ。ある山のてっぺんにいても「実はもっと高い山がありました」となるのは珍しくなく、これはなかなか嬉しくない。昨今、内容・形式・文体が「全部なんとなく似ている」WEBライティングが氾濫していることもその一例だろう。 - -本稿で対象にするのはこの薄弱にしてあらがい難い、ときに「神の見えざる手」とも呼ばれる何者かの所在だ。WEBメディアの発展にともない劇的に発達したWEBライティングを題材に、その表現が最適化されるシステムならびに数理モデルを仮定し、自然現象としての文章表現について考察する。 - -## WEBライティングの評価指標と原稿料 - -インターネットを経由してぼくらが日々摂取する情報のほとんどは文字のかたちをしている。ネットニュース、ブログ、SNS、メッセージングツールなどなど、だれかの手によって吐きだされる文字たちは不特定多数の「わたしたち」の目から脳へと染み込んでゆく。社内外切抜通信社によれば、2009年から2018年にかけて新聞・雑誌の発行部数は26.3%減少した一方、WEBメディアの媒体数は2.7倍の4,018サイトに増えていて([出典](https://digitalpr.jp/r/30895))、消費される文字情報の量とスピードは新たな生態系をつくりだした。 - -2000年代後半から2010年代前半は「ネットで文章を書けば金になる」ことがなんとなく知られるようになった時代だった。文筆業は専門的な知識とスキルをつんだ人間の仕事だと思われていたが、「いつでも・どこでも」仕事ができる手軽さに、「物書きとして働きたい」というぼんやりとした憧れがあいまって、WEBライティングが「だれでも簡単にはじめられる内職」として広まった結果、WEBライターの生産性を軸にした報酬体系が形成されるに至った。 - -**Table 1 WEBライターの原稿料相場** -(引用:[https://upwrite.jp/blog/35](https://upwrite.jp/blog/35)) - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
- 1文字あたりの単価相場 - 補足 -
有名ライター - 100円以上 - SEOやバズで数字を持っているライター -
上級ライター - 15円〜20円 - 豊富な経験、元記者、専門領域を持つライター -
中級ライター - 3円〜15円 - ライターとしての社員経験や数年以上の経験があるライター -
初心者ライター - 1円〜3円 - 未経験からスタートしてある程度しっかりした記事を書けるライター -
未経験ライター - 0.1円〜1円 - ほとんど記事を書いたことがないライター -
- -Table 1は、WEBライターのおおまかな原稿料相場の例だ。実績もコネもなくWEBライターになると最下層「未経験ライター」からキャリアがスタートする。仕事は「企業・店舗の商品販促」がメインで「SEO(検索エンジン最適化)」を意識した記事制作を行う。ちなみにぼくがはじめて受けた仕事の原稿料は1文字あたり0.2円(1記事60円)だった! - -過去にぼくはTwitterでこんなアンケートをとってみたのだが(Figure 6)、どうやらぼくのまわりでは月収20万円程度が「食える」のボーダーラインらしい。0.2円とは言わずとも「1円ライター」と呼ばれる文字単価1円でさえ、毎月20万文字を書いてやっと食える。これはちょっとした長編小説1冊分の長さだ。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image2.jpg "image_tooltip") - -**Figure 2「食える」月収とは?** -[https://twitter.com/bohtaki/status/1367990588608368642?s=21](https://twitter.com/bohtaki/status/1367990588608368642?s=21) - - -## WEBで価値のあるテクストとは? - -WEBライターになるのはかんたんだけど、文字単価が低ければ、書いても書いても最低限「食える」収入は得られそうもない。どうすれば単価が上がるのか──その方法は「クライアントの便益に貢献すること」に尽きる。そして、ほぼすべてのWEBメディアが抱えるビジネス課題──それが閲覧数(PV)だ。WEB記事はPV数を最大化するように制作され、「PV至上主義」と呼ばれることもある。 - -やみくもなPV至上主義によって登場したのが「ワードサラダ」と「炎上記事」だ。「ワードサラダ」は過剰な検索エンジン対策として大量のキーワードを盛り込んだ可読性の低い記事を量産し、対象読者が人間ではなくクローラーになってしまった。一方で炎上記事は扇情的なタイトルと内容を駆動力とした記事で、人間の感情を攻略することに特化している。 - -Figure 3 を見て欲しい。ニューヨーク・タイムズの7000件の記事をもとに、ある感情をもたらす記事が、同紙の「いちばんEメールされた記事」リストにどれだけ登場するかを調べたものだ。拡散しやすい記事はポジティブ/ネガティブな感情を強く喚起する性質を持ち、特に「怒り」がもっとも高い。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image11.png "image_tooltip") - -**Figure 3 記事の拡散と感情** 元データはBerger, J., and Milkman, K. L., “What Makes Online Content Viral,”, Journal of American Marketing Research, 2011 グラフはオリバー・ラケット、マイケル・ケーシー著『ソーシャルメディアの生態系』掲載図を筆者が再現 - -敷衍すると、「ワードサラダ」も「炎上記事」も、PV至上主義という極端に偏った戦略が採用されることで、制作された記事の「読みもの」としての評価が著しく低く、あるいはいびつになってしまった。 - -## 意思決定数理モデルから解釈する「WEBライティング」 - -そうだとすれば、 WEBライティングが「全部なんとなく似ている」原因は、書き手に内在する意思ではなく、むしろ外在する制度によってテクストが最適化されているためではないか。 - -**Table 2 WEBライティングの評価指標と戦略の例** - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
評価指標 - ページ解析 - PV(ページビュー) -
滞在時間 -
CTR(クリックスルーレート) -
CVR(コンバージョンレート) -
ソーシャルメディアのリアクション - インプレッション(imp) -
いいね(Like) -
シェア数 -
戦略 - 企画内容 - テーマ設定 -
ターゲット(読者)設定 -
執筆者 -
公開方法 - 掲載メディア -
コンテンツの長さ -
期待する感情喚起 -
予算・収益 - 原稿料 -
広告/スポンサー -
マネタイズ手法 -
- -Table 2 にまとめたのはWEBテクストの評価指標と戦略だ。評価指標はWEBメディアに介入の余地がないのに対し、戦略はWEBメディアの裁量で変更でき、特定の評価指標を前提とした戦略がされることでWEBライティングの表現は決まる。これは一種の意思決定問題と解釈でき、その数理モデルを検討した。 - -Figure 4 は階層分類法を用いてテクストの総合評価を構造化したものだ。複数の評価指標がWEBライティングの総合評価を構成し、評価指標に作用する戦略が下層に配置される。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image6.png "image_tooltip") - -**Figure 4 階層分析法に基づくWEBライティングの評価モデル** - -このとき、戦略Cjが評価指標Fiに与える影響をfij、各評価指標の重要度(重み)をwiとすると、戦略Cjにより制作されたWEBテクストの評価値Sjは以下の式で定義される。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image12.png "image_tooltip") -(1) - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image1.png "image_tooltip") -(2) - -評価値Sjは冒頭でのべた数理生物学における「適応度」に該当する。では、手持ちの戦略Cjがわかっているとき、重みwiはどのように求めることができるのか? - -すべての戦略を考慮した総合評価Sは以下のように表現できる。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image3.png "image_tooltip") -(3) - -ここで左からかかるN×nの行列をAと置くと、意思決定に関わる重みwiは以下の固有方程式の問題に帰着する。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image9.png "image_tooltip") -(4) - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image5.png "image_tooltip") -(5) - -この固有方程式は正方行列ではないため、めちゃくちゃめんどくさい。意味のあるかたちで解くにはいろいろと工夫が必要になる。それはまた別の機会にしたい。 - -## テクストの熱力学的な死にあらがう意思 - -理屈の上ではこの固有方程式を解くことで、WEBライティングの表現が決定される構造を特定できるとわかった。最後に、Figure 5で問題の全体像を確認したい。 - -![alt_text](./assets/images/ohtaki/image14.png "image_tooltip") - - -**Figure 5 プロトタイピング−アーキタイピングの反復(郡司ぺギオ幸夫『生命、微動だにせず 人工知能を凌駕する生命』、デジャヴ・逆ベイズ推論の議論より筆者が着想)** - -問題解決には2つのアプローチがある。多数の可能な戦略を絞り込んでテクストをかたちにするボトムアップの「プロトタイピング(固有方程式を解く)」と、テクストの反響から改善策となる戦略を新たに想起するトップダウンの「アーキタイピング(問題系の設計)」だ。 - -2つの反復を経てテクストは最適化され、両者を切り離して考えるのは不可能であり、機械的演算と不確定な想起が混在した問題として扱われなければならない。一定の問題系のもとで反復するごとに最適値へ接近しているわけではなく、反復ごとに問題系は更新され、やがて問題系が収束したとき──生物の進化の方向が一意的に決まるように──あらゆるWEBライターが同じものを書く。 - -書き手に内在する意思が外的因子に対して無視できるほど小さくなるとテクストに熱力学的な死が訪れる。ぼくらに意思はある。現実のインターネットに晒されるテクストは、その出自たる問題系が更新され続けることにより約束された死を遠ざける。その抵抗が、未だだれも見たことがない文字列を嗚咽とともに吐き出すのだ。 - -## 参考文献 -- 齊藤芳正著、『はじめてのオペレーションズ・リサーチ』(ちくま学芸文庫)、2020年 -- スチュアート・カウフマン著、米沢富美子訳、『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』(ちくま学芸文庫)、2008年 -- 今野浩・後藤順哉著、『意思決定のための数理モデル入門』(朝倉書店)、2011年 -- P. W. シンガー・エマーソン.T .ブルッキング著、小林由香利訳、『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』(NHK出版)、2019年 -- Berger, J., and Milkman, K. L., “What Makes Online Content Viral,”, _Journal of American Marketing Research_, 2011 -- オリバー・ラケット、マイケル・ケーシー著、森内薫訳、『ソーシャルメディアの生態系』(東洋経済新報社)、2019年 -- 郡司ぺギオ幸夫著、『生命、微動だにせず 人工知能を凌駕する生命』(青土社)、2018年 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/ozawa.md b/ozawa.md deleted file mode 100644 index a1f5b8ca..00000000 --- a/ozawa.md +++ /dev/null @@ -1,121 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 小澤みゆき「PRのための『周辺』原稿」 - -# 担当する目次 -16.パブリシティ:広告/宣伝/販促/PR/SNS/検索/効果測定 - -# プロフィール -1988年生まれ。東京都在住。会社員。編著に『かわいいウルフ』(亜紀書房)。近著に「ウルフ・チャット」「文芸という海――メジャーとインディペンデントの波間で」(「群像」掲載)、「若さの予感」(「しししし」掲載)。すきなアイスは「チョコミント」。 - -# 初稿 -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -## はじめに - 本の企画やPRも立派なモノづくりのプロセス。部数の獲得、制作費の回収、原稿料や印刷費の支払い――創作活動を持続可能なものにするためには、読者の認知獲得やメディアへの売り込みといった、本の「周辺」に位置する数多くの原稿が必要になる。 - -## 企画〜制作初期 -* 企画書 - * 本を作りたいと思ったらまずアイデアをまとめよう。フォーマットはA4で1、2ページ程度。詳しい記載内容は([^1])を参照。 - * タイトル - * 本のタイトルがそのままコピーになるようにしたい([^2])。 - * 判型・ページ数 - * 本の大きさ・厚さによって通販の送料や書店の注文数が変わる。 - * 部数 - * 期待売上高から、同人誌即売会の出店料やレンタルサーバー代など、販促予算を割り出す。 - * 刊行時期 - * 同人誌即売会などのイベントに合わせると読者の認知をより得やすい。 - * 想定読者 - * ペルソナがあるとPRのコンセプトが組み立てやすい。 -* 執筆依頼書 - * 企画書の内容に加え、その人に原稿を依頼したい理由を丁寧に書く。 - * 納品物の広告文への流用を想定し、二次利用や著作権についても事前に確認。 - * 複数人で編集・制作を行う場合、告知の足並みを揃えるため、情報解禁スケジュールもあらかじめ共有する。 -* 依頼メール - * ファーストコンタクトがSNSやメッセージングツールでも、証跡を残すためにメールで依頼する。 - - -## 制作中 -* SNSでの告知 - * 告知とプライベートを切り分けたいなら、PR用アカウントを作成。 - * すぐに出すべき情報と、後日でよい告知がある。同人誌の存在そのものや企画趣旨はどんどん発信しよう。 - * 企画趣旨が多数の人々に伝わり、制作も進んできたら、徐々に記事内容や寄稿者の情報も公表する([^3])。 - * タイトルや詳しい目次は、ウェブ予約の開始や同人誌即売会の情報解禁に合わせて発表すると効果的。 -* メインビジュアル - * 書影を中心に販促用画像を作成([^4])。 - * SNSで画像のインパクトは大きい。OGP([^5])の設定をはじめ、展開の仕方には気を配ろう。 -* プレスリリース - * A4 1、2ページで制作([^6])。 - * メディア取材を狙う資料だが、その通りになることはあまりない。しかしメディア認知は重要だし、献本にも使える資料なので作っておこう。 - * 販路が決まったら、通販・書店・同人誌即売会等の入手方法も記載する。 -* ランディングページ(LP) - * 本に関する情報が網羅されたウェブサイト。手のこんだサイトを作る必要はなく、プレスリリースの掲載情報の転記で十分。コーディング・デザイン不要のウェブサービスを活用する([^7])。 -* 商品購入ページ - * ネット通販をする場合は、購入ページをLPとして活用できる。 -* メディアリスト・献本先一覧 - * 興味を持ってほしい媒体の問い合わせ窓口にプレスリリースを送る。媒体がリリースを受け付けていない場合は、その企業のコーポレートサイトから連絡する。メール本文にも簡単に企画趣旨を書いておく。 - * 見本誌ができたら、冊数の許す限り印刷したリリースともに献本しよう([^8])。 -* リリース送付メール - * SNSにリリースを画像投稿するのも効果あり([^9])。 -* スタッフリスト - * 執筆者や関係者(デザイナー、イラストレーター、校正・校閲、その他協力者)の名前を書籍の奥付とLPに記載。 - - -## 発売後 -* 取り扱い書店リスト - * 店舗名とサイトやSNSのリンクを都道府県別にLPに掲載すると親切。 -* 即売会販促用素材 - * ポスター - * ブース番号を目立たせて見つけやすくする。 - * 立ち読み用見本誌 - * 即売会によっては必須。 - * POP - * 通行人の目を引くキャッチコピーがあるとよい。 - * 特典 - * 即売会に足を運ぶ読者にとって購入の動機づけになる。 -* 効果測定シート - * SNSやサイトの各種指標のまとめ([^10])。 - * 告知の広がりを把握するには、LPのPVとSNSのエンゲージメント数が役立つ。 - * 告知のタイミングと日別のコンバージョン数の関係を確認し、どのPR施策が読者に刺さったかを振り返る。 - * SNSのインプレッション数(表示回数)はあまり参考にならない。関心の薄い人々にも表示されるため。 -* FAQ - * 想定質問への問いをまとめておくと後で楽(制作の動機・コンセプト・ジャンルに対する意見など)。 -* 販促イベント企画書 - * 打ち合わせ議事録や当日の段取りも同じ資料に記載しておくと、関係者間での共有がスムーズ([^11])。 - - -## さいごに - - すべてを最初からできていたわけではなく、他の同人誌に多くを学んだし、他業界のプレスリリースや企画書も参考にした。また、同人誌と商業書の両方を経験して、PRにおける出版社の存在はやはり大きいと感じた。取次流通の営業実務やメディア対応、献本作業は基本的にまかせられる。もちろん作者による(主にネットでの)積極的な情報発信の大切さは変わらない。大切なのは一人でも多くの読者に手にとってほしいという熱意と、「周辺」の原稿もモノづくりの一環だと楽しむ気持ち。売ることは、作ることと同じく喜びに満ちた行為なのだから。 - -[^1]: [『標準 編集必携 第2版』(編集:日本エディタースクール、2002、日本エディタースクール出版部)](https://www.editor.co.jp/press/ISBN/ISBN4-88888-325-4.htm) - -[^2]: スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫氏の働き方が参考になる。/[『「もののけ姫」はこうして生まれた』(製作:徳間康快、企画:鈴木敏夫、2001、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)](https://www.disney.co.jp/studio/ghibli/0237.html) - -[^3]: RTやいいねが100件を超えると、ある程度の人数に期待・認知されていると実感できた。Story Design house株式会社の[公式note掲載のインタビュー](https://note.com/storydesignhouse/n/nece4778c2477)でも詳しく語っている。 - -[^4]: サムネイル画像だけならGoogle SlidesやPowerPoint、ペイントなどで作成可能。 - -[^5]: OGPはOpen Graph Protocol で、ウェブサイトの情報をSNSでシェアする際に必要な情報。HTMLタグとして記述すると、リンク画像やページタイトルが展開され、クリック率の向上が期待できる。[Twitter / Card Validator](https://cards-dev.twitter.com/validator) [Facebook / シェアデバッガー](https://developers.facebook.com/tools/debug/) - -[^6]: 独立系の出版社や取次がリリースをウェブサイトに公表することもある。例えば本の販売代行を行うH.A.B.では、「注文書」と呼ばれる書店向けの[営業資料をウェブで公開](https://www.habookstore.com/%E6%B5%81%E9%80%9A-distribution/)している。また、河出書房新社はしばしばPRTimesで[新刊告知のプレスリリース](https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/12754)を配信している。 - -[^7]: 例えば[WiX](https://ja.wix.com/)。とにかくサイトが「ある」ことが大切。 - -[^8]: 文芸誌への献本が編集者の目に留まり、寄稿依頼を頂いたことがある。売上に直接つながったわけではないが、これも「周辺」原稿だろう。 - -[^9]: 文章表現のグループ・いぬのせなか座の山本浩貴さんがプレスリリースを[ツイートした例](https://twitter.com/hiroki_yamamoto/status/1408809095654563841)。 - -[^10]: 告知ツイートのアクティビティのキャプチャ画面を残すだけでもよい。ウェブサイトのアクセス解析は[Google Analytics](https://marketingplatform.google.com/intl/ja/about/analytics/)が一般的だが、noteやはてなブログといったCMSでも独自の簡易ツールを提供している。 - -[^11]: 書類共有には[Google Docs](https://www.google.com/intl/ja_jp/docs/about/)をおすすめする。Wordやテキストファイルを複数人でやりとりするとバージョン管理ができないし、情報が漏れる恐れもある。出版は立場の異なる複数の人々が関わる共同プロジェクトなので、情報へのアクセスのしやすさや透明性はとても大切だと思う。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/porologue.md b/porologue.md deleted file mode 100644 index aca5557a..00000000 --- a/porologue.md +++ /dev/null @@ -1,164 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# poroLogue「原稿料はどう決める?――Webメディアの副編集長が作り上げた『事業と財務』の対話を促す経理の仕組み」 - -# 担当する目次 -18.財務・会計:確定申告/貸借対照表/損益計算書/キャッシュフロー計算書/製造原価報告書 - -# プロフィール -早稲田大学文化構想学部卒業後、日立グループにて全社の業務プロセス改善プロジェクトに従事。退社後、株式会社Moguraにてメディア事業、VTuber領域統括等を担当しつつ、経理財務領域の運営も担当した。 - -# 初稿 -
- -> 「作家の手帖」発足から1週間。執筆者募集のかたわら、事業と財務の両面から原稿料について語れる方を探していたところ、株式会社Moguraの永井良友さん(現・ MoguLive副編集長)から「協力できるかもしれません」とお声がけいただき、早速編集部は通話取材を行った。これはその速記をもとに作成した編集記事である。当日の言葉づかいや掛け合いの復元ではなく、発言の骨子を要約し、再構成した。業界紙の取材記事っぽいハードボイルドな感じに仕上げてみたかったからである。 - -
- -### 取材 -2021年04月23日(金)19:00-20:00@Google Meet -出席:永井、笠井(聴き手)、小澤(書記) - -![alt_text](./assets/images/poroLogue-image.jpg "poroLogueさんアイコン") - -
- -## Webメディアの原稿料・利益目標の決め方は? -**笠井** Webメディア運営において、原稿料はどう設定しているか。1記事あたりの制作費や目安作業時間を算出している? - -**永井** 1記事ごと全てを個別に算出しているわけではない。「ニュース記事」や「インタビュー記事」など、カテゴリ毎に大まかに決めていく形がオーソドックスだと思う。 - -
- -**笠井** 事業収支よりも細かい単位で考えることはある? - -**永井** 事業単位ではなく記事単位で利益目標を設定するとしたら、相当なPVボリュームのある記事を制作する場合ならありうるかもしれない。Webメディアの場合はGoogle Adsense等の広告収益のほか、クライアントから受注する記事広告など複数の収益源があり、それらを複合的に考慮し利益目標を決めていく。ゆえに必ずしも「この記事単体でいくらの利益を目指す」といった指標を設定しているわけではない。記事PVや掲載価値など、事業部門が重視する指標と収支の関係を理論づけできれば、記事別の利益目標を作れはするとは思うが。 - -
- -**笠井** 官公庁のように、社内に報酬体系や謝金等級がある? - -**永井** 記事の種別ごとに、業界水準等を参考に決めている。それを基本に、たとえば卓越した知見・経験を持つ記者の方であれば報酬額の調整が発生することもあるだろう。 - -
- -**笠井** 編集報酬も厳密には決めていない? - -**永井** 業務委託の編集者であれば、記事何本編集でいくらではなく一日換算で金額を決めることはある。コンサルタントや弁護士の時間単価に近いかもしれない。 - -
- -## テキストデータはストック型資産ではないのか? -**笠井** 原稿料は、会計科目ではどの仕訳になる? - -**永井** 執筆依頼をするなら外注費、内製するなら人件費とするのが通例ではないか。税務上は、原稿執筆依頼は源泉徴収の対象となる役務の提供に当たる。 -とはいえ、笠井さんの想定質問にあった「テキストデータは無形固定資産ではないか」という指摘は新鮮だった。原稿を資産計上すると税務署に叱られそうだが(苦笑)、Webメディアに掲載されたテキストは、将来一定期間にわたって利益を生み出す源泉となるもの。実感的にも資産だとは感じる。ほか工業簿記の比喩で、執筆中の原稿を「仕掛品」、完成原稿を「製品」などと解釈してみるのは面白いと思う。 - -
- -**笠井** メディア運営以外にも事業ポートフォリオを組んでいる企業が存在する。メディア運営における、財務上の比重と、企業ブランド上の比重についての考え方はどうか。 - -**永井** 企業によるのではないか。メディア事業単体の経営成績を重視する考えもあれば、メディア運営を他事業の収益化に欠かせない投資とする考えもある。たとえば単体では利益は少なくとも、代わりに読者数を増やし、得られた認知をもとに他の事業に送客するなど。 - -**笠井** 初期のほぼ日が手帳で収益化していたように。 - -
- -**笠井** 仮にメディア単体の収益性を上げようとすると、記事の掲載方針も変わる? - -**永井** ひとつは、長期間・一定以上の人数に読まれる記事を効率良く貯められるテーマを選定することで、ストック型の運営に近づくのではないか。より無形固定資産に近いテキストデータの作り方。あるいは、記事単品の拡散力に強みがあるなら、短期間で一気にページビューを稼ぐ「バズ記事」を中心としたフロー型の運営も考えることができる。 - -**笠井** メディア運営にあたって、ストックとフローのどちらに重きを置くかで、メディアの性格が変わるのだろう。 - -
- -## 事業をサポートする「攻めの会計」 -**笠井** 運営当初と、組織拡大後では状況も変わるだろうが、執筆者には何をどこまで決めて依頼している? - -**永井** 執筆者のレベル次第。大まかな要望だけを伝えるだけのこともあるし、こちらから構成案や、どんな人にどう伝えたいかなどの要望リストを作って伝えるなど。まだ書き慣れていない執筆者の原稿は細かく赤入れするか、こちらで引き取って完成稿まで仕上げることもある。迷いながらリテイクを重ねて書いてもらうより、まずはお手本を示す意味でも。 - -
- -**笠井** 原稿料を支払うとき、必ず執筆者に伝えたほうがよいことは? - -**永井** 特に原稿依頼に不慣れな人を対象に、Excelで関数を入力した請求書の記入フォームを渡す。源泉徴収税や消費税などの法令に沿った金額を自動的に算出できる。執筆者ごとに自由書式にすると、誤計算や再発行が生じる場合があるため。 - -
- -**笠井** 執筆者に配慮することで、社内の仕事も減らせるわけか。 - -**永井** 私は事業推進に加えて財務部門の運営も兼務していた。そのため個人的な考えだが、会計部門は各事業部の経理処理をサポートしつつ、事業運営の助言もする体制が理想だと思っている。たとえば事業担当と財務担当で数値を一緒に見ながら、事業毎の数値目標の設定支援をするなど。 - また、請求書発行などの事務処理は、事業部門のコア業務ではない。忙殺されると担当者も処理をため込んだり、請求漏れなどが発生してしまう。そのため管理部門側から声掛けをしつつ、合わせて現状のデータ上では見えにくい数値・指標や事業部内の細かな文脈も聞くようにしていた。管理部門と事業部門が密に対話できるようになれば、互いを理解しやすくなるからだ。 - -
- -## 事業管理に大事なことはどれも働きながら学んだ -**笠井** いわば攻めの会計。なぜその体制を作り上げようと思った? - -**永井** つきつめれば、私に事業と経理のどちらも経験があったからだろう。ともすれば経理は事務・数値処理だけをするコストセンターだと見られるが、事業と財務の双方を理解し、数値設定や業務改善を支援することができれば、付加価値を産むことができる。 - -
- -**笠井** 専門知識はいつ学んだのか。働き始めてから? - -**永井** 前職で日立グループのIT部門に勤務していた時、会計に関わるシステムの構築・導入支援をしていた。そこで大まかな流れや基本用語を学べた。本格的に簿記の専門知識を学んだのは現職で経理・財務を扱うようになった頃。事業推進と財務を兼任しながら実践で学んだ。 - -
- -**笠井** 会社の成長とともに知識を増やした? - -**永井** いまでは月次・年次決算の取りまとめのほか、キャッシュフロー管理や税理士とのやり取り、財務分析・年間数値計画の策定、経理・財務に関することは一通り経験した。 -自分の中での事業と財務で作業ボリュームを分けて考えた際、定常的な財務作業のボリュームは毎月20~30%程度。クラウド会計ソフトの導入により、作業の多くは効率化・自動化されている。事業別の売上管理や請求・支払処理もオンラインで完結しているから、自動化できない仕事を経理担当が行い、その結果を受けて私が微調整する。決算業務の支援も顧問税理士に依頼しており、その結果をチェックする体制。 - -
- -**笠井** 会計システムの知識はどう学んだ? - -**永井** 会計ソフトの指示に沿って設定する程度なら、個々の機能は1日?2日かければ独学できる。例えばAmazonやyahooといったECサイトは、代表的な会計ソフトに対する売上データ連携機能を提供しているから、その設定を行う。また最近は会計ソフトの知識がある税理士もいるため、有識者に聞くなど。 - -
- -**笠井** 専門資格も働きながら取得した? - -**永井** 簿記資格は取得した。3級を取れば会計実務の初歩は理解できる。2級は連結決算なども範囲に含まれるため、必須かどうかは企業規模による。ただ、いずれにせよ資格取得で専門知識や基本ルールは学べるが、実際の経理業務プロセスまでは学べない。 - -
- -## 自動化とアート――テキストメディア運営の未来 -**笠井** ゲームになぞらえると、世界観は学べるが、攻略法は学べない。 - -**永井** まさにその通り。インハウスの財務担当者には、専門知識をベースにしつつ組織づくりの能力が求められる。各経理作業を社内・社外の誰に頼むか。業務プロセスのどこで、どのシステムを使うか、なにが経営判断に必要な数値で、どうまとめるか…など。 - -
- -**笠井** 今後、知識を増やすとしたら、より実践的で、より経営管理に近い分野? - -**永井** たとえば中小企業診断士などの資格勉強をしたり、「企業会計(中央経済社)」のような、実務者向けの専門誌を読むなどだろうか。また、ITに習熟することも重要だ。個人的な会計プロセスの理想は「自動的に月次・年次決算の結果と、経営に必要な財務分析結果が出てくる」ということだと考えている。DXが叫ばれる昨今、遠くない将来に、さらに会計プロセスの効率化が進むだろう。それに備えて、自前でシステム設計するのか、すでにあるITサービスを組み合わせるのか。見極められるといい。 - -
- -**笠井** 今の永井さんから、かつての永井さんに「この知識は身につけて」と助言するとしたら? - -**永井** 集約した財務数値を分析結果としてまとめ・改善提案まで持っていくためのスキルだろうか。創業間もない企業での経理プロセスにおいては、まず「数値を正しく集める」事が第一だ。だが次第に「集めた数値を意味づけし、財務分析結果としてまとめ、経営に有益となる改善提案を行う」という一連の流れが重要となるからだ。 - -
- -**笠井** 「30年後も読み継がれるテキストメディア」を想像するとしたら? - -**永井** テクノロジー分野だと、技術水準がまったく変わっているだろう。「お金」のような普遍的なテーマでも、資産運用の方法から変わっているだろう。30年後も読み継がれるテキストメディアがあるとすれば……それはやはりアートではないか。青空文庫がその例かもしれないが。ただ、私たちがインターネット黎明期のテキストメディアを懐かしいものとしてほほえましく読むように、そのテキストの読まれ方は変わるのだろうと思う。(了) - -
- -制作・企画:「作家の手帖」編集部 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/sekiguchi.md b/sekiguchi.md deleted file mode 100644 index 9054ecef..00000000 --- a/sekiguchi.md +++ /dev/null @@ -1,49 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# 関口竜平「書くということ——ただ『置く』だけではない、<メディア>のひとりとしての書店」 - -# 担当する目次 -15.流通・販売:店舗在庫/即売会/EC/電子書籍/ISBN/梱包・発送/納本・献本 - -# プロフィール -本屋lighthouse店主。1993年2月26日生まれ。20歳のころから卵と乳がアレルギーになりました。 - -# 初稿 -## はじめに - - 本の帯に載っている書店員のコメント。その書き手に「原稿料」が支払われることはほとんどない。 - - このことを知って驚いたあなたはその感覚を大事にしてほしい。驚かなかったあなた、つまり、おそらく書店か出版社で働くあなたに向けて、いまから「書店員」として「原稿」を書いていく(もちろん一読者のあなたにも)。 - - 出版業界以外の人のために、大まかに説明したい。出版社は刊行前にプルーフやゲラ(=書店員向けサンプル)を書店員に読んでもらい、感想や推薦の言葉を募ることがある。本の帯に載っている書店員のコメントは、主にそこから抜き出したものだ。このプルーフ/ゲラは挙手制でもらうこともあれば、出版社から送られてくることもある。それを書店員は読み、コメントを返し、場合によってはそれが採用されている。 - - つまり「プルーフ読み→コメント返し(※以下「プルーフコメント」と表記)」は基本的には書店員の能動的な行為であるが、だからといってそれが無報酬を正当化することにはならない。 - - -## 1. 書店員も「書き手」である - 本を読みコメントをする=文章を書くという行為は、明らかに創作である。書評家が書評を書いて原稿料をもらうのと同様だ。少なくともそのコメントが出版社によって「販促目的」で利用されるのなら、書き手が対価=報酬を要求する権利のある成果物であることは明白だ。しかしその意識が出版社にも書店員にもないことが多い。故にこれが搾取の一種であることに気づいていない。なお、献本は報酬と認めてはならない。「プルーフコメント」という一連の行為に数時間を要しているのだから、最低賃金で換算しても1万円ほどを請求してもおかしくはない。もう一言添えておくと、これを通常業務内に行なえる書店員はほぼいない。多くが休憩時間や家で行なっている。要するに時間外労働だ。 - -## 2. 「コメント」が「配本」の条件? - 出版業界では書店が発注した冊数がその通りに入荷されないことがままあり、「調整出荷」や「減数」といった言葉で常識化している。故に出版社が用意するコメント記入用紙兼発注書には「◯月◯日までにコメントを返していただければ発注数通りに出荷します」という文言がよくある。しかしこれ、裏を返せば『コメントを返さない場合は配本0の可能性もありますよ』ということだ。しかもコメントは無償で使われてしまう。もはや「人質」である。献本を報酬と認めてはならない、というのはここにも繋がる。そもそもが対等な関係ではないのだ。さらに、この場合においては書店員は能動的にプルーフコメントをしているわけではなくなっている。もう一度言おう。搾取である。 - -## 3. 会社に黙ってやる仕事? - しかし書店側にも問題はある。仮に社外から報酬をもらう場合、「個人」として受け取るべきなのか「会社員」として受け取るべきなのか、という問いが生じる。書店員は書評やコラム執筆、選書などを所属会社以外から受けることがあるが、その多くは「個人」として受けている。人によっては会社に報告せずにやっている。その理由は副業禁止規定があるとか(これが副業になるというのもおかしいが)、あるいは「会社に搾取される」のを恐れて、といったこともある。信じられない話だが、出版社主催の店頭飾りつけコンクールの入賞商品を、担当した店舗やスタッフから会社が奪い取ることもあるらしい。となると会社を通して書き仕事を受けた場合、報酬がすべて会社に持っていかれる可能性もある。ならば黙ってやるしかない。 - - しかしそうなると、出版社としてはそれなりの額を「黙ってやっている」相手に出すのは不安になる。源泉徴収や確定申告のことを熟知している人間は書店員に限らず少ないからだ(故に回避策として原稿料=図書カードとしているところもある)。となると「プルーフコメントにも報酬を」という主張は、書店自身の制度/体質的な壁によって阻まれることにもなる。さらに書店現場の多くは非正規雇用であるため、「会社に要求する」という行為のハードルも高い。 - - プルーフコメントをしないと配本がない(かもしれない)、しても無報酬&配本が増えてたくさん売っても給料は上がらない、そもそもが時間外労働。もう一度、いや言い直そう。奴隷である。出版社に対して、そして所属会社に対して。 - -## おわりに - 本稿を読み、あなたのなかに何かしらの「意識」が少しでも芽生えたのであれば幸いである。真剣に書き、物事を問い、そうして生まれた成果物が読み手や社会に対して何かしらの影響を与える。そしてその対価として書き手は報酬を得る。このまっとうな循環を加速させたい。それが本の、そして私たちが生きる社会の未来を明るくすると確信している。実際に、とある「ひとり出版社」から報酬ありのプルーフコメントの依頼がきている。本稿に書かれた現実は絶望的なものに思えたかもしれないが、決して光は途絶えていない。 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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- -# [TOPページ](./index.md) diff --git a/ukkari.md b/ukkari.md deleted file mode 100644 index 4a7358d0..00000000 --- a/ukkari.md +++ /dev/null @@ -1,69 +0,0 @@ ---- -layout: default ---- - -# うっかり「俳句とお金」 - -# 担当する目次 -原稿料:文字単価/署名/著作権/CCライセンス/印税/リテイク - -# プロフィール -第二回全国俳誌面協会新人賞準賞。BFC1に「抱けぬ身体」原英にて本戦出場。第十回北斗賞佳作 [関西現代俳句協会青年部のHP](http://kangempai.jp/seinenbu/haiku/2019/04hara.html)に10句 - -# 初稿 - -## 1. 俳人たちの集い - 俳人は黙々と俳句を詠んでいるように思われているかもしれない。実際は俳句をきっかけとしてよく集まり、よくしゃべる。俳句は純粋読者がほぼおらず、読めば詠むという文芸だ。句会も活発に行われる。句会での作品は無記名で平等に扱われ、参加者で選評を言い合い、ゲームと会議の中間のような雰囲気で行われる。有名な俳人でも俳句初心者でも無記名なので関係ない。最後に票の入った句の作者が明かされる。指導を任されている、或いは依頼されている立場の人は作品に対してアドバイスを行う。またはそのような立場の人がいない句会も多い。 - -## 2. 俳句人口 - 俳句を詠む人が100万人はいると言われる中で、俳句の原稿や指導料で収入を得ている人は1000人に満たないはずだ。数十人規模以上の結社や同人誌は600誌程度しかないからだ(2021年角川俳句年鑑記載の数は592誌)。俳句における結社とは、師とその弟子の集団だ。そして月刊、或いは季刊の結社誌という発表媒体を持つ。同人誌はそれに対して、編集上のリーダーはいるが、その弟子たちという構図ではなく、関係性は平等だ。これら団体のリーダーであっても俳句関連業で生計を立てている人はおそらく10人もいないだろう。さらにいえば、創作だけで生計を立てている人はいない。結社の主宰でもほとんど本業を持っている。 - -## 3. 俳句にかかる出費、そして収入 -### 3-1. 出費 -会費や書籍購入費がほとんど - - 1. 結社や同人誌、協会の年会費 - 2. 句会の会費(場所代) - 3. 句集や俳句雑誌の購入費 - 4. 勉強会や講座の受講費 - 5. 賞の応募費(送料ではない) - 6. 句集出版(基本自費出版) - 7. イベント参加における交通費 - - 俳句は紙とペンがあればお金がかかりませんと言われる。一人で書くだけならいいが、実際は句会への参加や書籍購入にお金がかかる。結社や同人誌や協会は年会費1万円程度。句集は2000円前後と高く、加えて俳句雑誌を買うと月に1万円程度すぐに無くなってしまう。そして句会に参加すると別途場所代などで支払いが発生する。さらに句会後の打ち上げでまた出費がある。このお酒の席は勉強会に近いため、これが必要な出費かどうか判断が難しい。俳句の依頼をもらうには実力も必要だが、その上に人付き合いがかなり大きな割合を占めているからだ。 - -### 3-2. 収入 - -原稿料か指導料 - - 1. 自身の俳句の原稿料 - 2. 鑑賞、評論の原稿料 - 3. 俳句エッセイなどの原稿料 - 4. 賞金 - 5. 句会における指導料 - 6. 講座による指導料 - 7. 個別添削による指導料 - 8. 俳句大会における選考料 - 9. 印税 - 10. イベント出演の交通費、資料代 - - 俳句だけでは食べていけないとよく言われる。まず、原稿料が出ない。むしろ俳句の世界では掲載にあたっては執筆者がお金を支払うシステムになっている。それは俳句の発表媒体のほとんどが結社誌や同人誌だからだ。これらは営利目的でないため、必要経費を参加者が支払う形式が多い。それでも足りない場合は寄付を募ることもある。句集もほぼ自費出版で、100万円以上かかる。原稿料が出るのは商業誌くらいだろう。その原稿料も連作の発表で数千円から数万円程度、そして基本的には単発の依頼だ。 - - 句換算での原稿料は高くても1000円程度だ。500円だとした場合、月に500句以上商業誌掲載されなければ家族を養うなどの生活は苦しいだろう。ただ、発表できるレベルの500句を毎月詠むのは難しい。参考までに私が詠むのは月平均で100句程度だ。俳人であればやや少ない方だろう。私が聞いた中で一番多いのは月平均600句だ。もちろん全て発表できるレベルというわけではない。さらに言えば、それだけの句を発表させてくれる俳句誌はない。つまり、俳句を詠むだけでは生活は成り立たない。講座の指導料は一回で数万円いただけることもあるが、書く能力と教える能力そしてネームバリューが伴わないと継続した依頼が来ない。ちなみに私が講座や俳句大会の選考をしても交通費名目で数千円程度、あるいはボランティアだ。 - - 例外として、詩歌関連以外の商業誌、或いは新聞などは詩歌でも原稿料が高い。その桁は一つか二つ上になる。しかしこれらに期待してはいけないと思っている。小説雑誌は小説の発表媒体であるため、俳人へ継続的に俳句創作の依頼は来ない。新聞も同様だ。 - -##  4. 専業俳人という未来 - 現状、俳句だけ詠んでいても生活ができる、あるいは生活の足しになる額は得られない。そのためには革新的なアイディアが必要だ。 - - 具体案として一句でも発表できる媒体があればどうか。それも一句で一日の生活費に相当する原稿料が出ればどうか。そのような考えのもと、俳句に限らず、短詩を一枚の紙に活版印刷し、販売する「一枚の本」という事業を立ち上げる予定だ。小説家のように、専業俳人という選択肢があれば、俳句業界はより良くなるだろう。 - -※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットは[STORES](https://authors-note.stores.jp/)から。 - -
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